有酸素性体力と血圧の関係を見てみましょう。約3,000人を調査したところ、低体力者は血圧が高いという結果が出ました。体力と高血圧罹患率を調べてみると、体力(スタミナ)が高い人は高血圧症にかかりにくいことがわかります。運動不足が血圧を高める要因であるということができると思います。また、血圧だけでなく糖尿病、高脂血症も運動と明らかに関係があります。 では、どのような運動がいいのでしょうか。研究の結果、高血圧の改善に効果的なのは、ニコニコペースの運動であるということがわかりました。ニコニコペースとは乳酸閾値に相当します。乳酸閾値とは、それを超えると乳酸が急増し始めるという強度です。以下、ニコニコペースのトレーニングの特徴をあげてみましょう。 (1)76歳の高齢者まで有効。(2)トレーニング初期に降圧が顕著。(3)強い強度のトレーニングよりも降圧効果が高い。(4) 肥満患者の場合、肥満改善なしでも降圧が可能。 軽運動が高血圧患者の運動療法として効果的であることはわかりましたが、なぜ、軽運動によって血圧が下がるのでしょうか。多くの要因で改善することが明らかになってきていますが、興味深いことに運動のような生理的刺激によって、心臓からHANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)というホルモンが分泌されることがわかりました。このHANPは、ナトリウムの排泄を促し、血管を拡張させ、血圧を下げるホルモンです。調べてみた結果、非常に軽い強度でもHANPは分泌され、その量は運動強度に比例して増加することがわかりました。反対に、血圧を上げるホルモンであるカテコールアミン、バソプレシン、アルドステロン、レニンは、ニコニコペース以下ではほとんど分泌されず、この強度を越えると急増します。つまり、ニコニコペースで運動すれば、降圧ホルモンが分泌され、かつ昇圧ホルモンは分泌されないわけです。このことから、毎回運動することで、体の中で薬が作り出されているということができます。 さて、以上のことをふまえると、水泳には降圧効果が多いに期待できるといえるでしょう。理由は、HANPは心拍数と帰還血液量が分泌刺激であるから、そして、横臥位では帰還血液量が多いから、また、水中では体幹部に血液が集まるからです。 |
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人間は、中・高校生時代に生涯で最も良好な健康体を保持しますが、40代に入ると肥満と成人病(生活習慣病)が発生しやすくなります。これは、人間の基礎代謝が中・高校生時代に最大となり、中年を迎えると急激に低下していくことと強く関係しています。 基礎代謝は、安静時における筋肉のエネルギー代謝を強く反映しており、筋肉の量の大小と筋肉のエネルギー代謝活性の強弱に左右されます。筋肉は、体タンパク質合成が活発な思春期に量と活性の両面でベストなので、この時期は基礎代謝を高く維持します。しかし、中年を迎えて体タンパク質合成が低下すると、筋肉は減量し代謝活性を低下させるため、基礎代謝は急降下します。そしてこれが、24時間にわたる脂肪と糖のエネルギーへの分解の低下につながるのです。その結果、体脂肪の蓄積と動脈壁への脂質の沈着による動脈硬化が進行し、高血糖・糖尿病が発生しやすくなり、心臓病にもかかりやすくなります。 したがって、肥満と成人病(生活習慣病)を防止・改善する基本的対策は、中年から始まる体タンパク質合成の低下を防止することと、低下した基礎代謝を高める努力をすることです。具体的には、筋肉タンパク質を増量できるタイプの運動であるレジスタンス運動(バーベルやダンベルを使う運動)が必須となります。中でも、1〜2kgのダンベルなどを使う軽レジスタンス運動(ダンベル体操など)は、筋肉の増量とエネルギー代謝活性を高めて基礎代謝を増大し、体温生産力の大きい体作りにつながります。 食事での対策は、タンパク質を摂取することが必須となるわけです。しかし高齢になると食が細くなり、タンパク質の摂取量も減ります。その結果、筋肉や骨にはタンパク質が届かなくなります。そこで、スナックでタンパク質を摂ることが大事になるのです。10時のおやつ、3時のおやつ、夜食に、高タンパク質スナック(卵の白身、脱脂粉乳、おから、麩、ゼラチンなど)を食べれば、筋肉や骨にタンパク質が届きます。なお、高タンパク質スナックには必ず砂糖を加えてください。インシュリン分泌を促進する糖分と一緒に摂ることが必要なのです。スナックでタンパク質を摂る方法は、高齢者だけでなく、子どもやスポーツ選手にもあてはまります。 |
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21世紀のアクアフィットネスはハード面の整備とソフト面の充実が必要となります。 ハード面は、お年寄りや車椅子の人でも使いやすいように環境の充実を図らねばなりません。また付属施設の活用も必要で、運動前のウォーミングアップと運動後の体温回復に役立つミストサウナ、マッサージ効果のあるスーパーチャージャー、マッサージ効果があり、体温の回復を含めたクーリングダウンやリラクセーションに役立つワールプールの3点セットを完備することが望ましいでしょう。さらに、リラクセーションチューブ、ビート板、保温水着などの補助具も活用しなければなりません。 次にソフト面について述べますが、スイミングクラブは人を相手にビジネスをしているわけですから、ソフトが一番重要なのだと思います。 プログラムは多様化し、個々のニーズに合ったものを提案する必要があります。また、事故防止のためにメディカルチェックは必ず実施し、運動効果はきちんと評価すべきです。 21世紀の指導プログラムは、(1)教室型ではなく選択プログラム(2)アディショナル・フィーによる専門的な指導(3)パーソナルトレーナー方式(4)クラブに介護施設を併設して水中療法を実施(5)デイケア・デイサービス方式による水中療法などがあげられます。いずれにしても、ノウハウを蓄積して、人と同じことをやらないということが大切でしょう。 インストラクターに関しては、専門的な知識や経験を持った専門家がますます必要となり、その教育も必須となります。金太郎飴式の指導を行うインストラクターは駄目なのです。 医療とのタイアップ、すなわち、保険への適用や、医師や医療機関とのタイアップも考えねばなりません。 会員に運動を継続させるには、動機づけが欠かせません。動機づけには腰痛を改善したいなどの外発的動機づけと、クラブに通うことが生きがいとなる内発的動機づけがありますが、大切なのは内発的動機づけです。マスターズスイミングを2年以上続けている人は、動機が外発的なものから内発的なものへ変わったという調査結果があります。クラブに行きたい、仲間やコーチに会いたい、と思わせることが大事で、内発的動機づけを与えてくれるインストラクターには人が集まります。
高齢者であっても水中運動中は水分が減少し、血液の濃度が増します。またこの水分減少により、長く泳げば体重が減ります。 さて今回は、水を使って実験をしようと思います。まず10名の方に出てきていただいて体重を測ってもらいます。それから軟水から硬水までさまざまな水を用意しましたので、そのうちのどれかを200cc飲んでいただき、再度体重を測ってもらいます。飲んだら飲んだ量だけ重くなるはずですから、みなさん200g増えたのではないでしょうか。しかし時間を追うごとに体重は減ってきます。10分で20gぐらい減るはずで、これが代謝のスピードということになります。硬度の違いが代謝の早さに影響を及ぼすと考えられますが、今日はこれ、明日はこれという具合にいろいろな水を飲み、体重の減りを調べると、どれが自分の吸収に合った水かがわかります。ですから精度の高い体重計があると自分に合った水を見つけることができますし、体重の変化だけで体調のチェックもできます。泳ぐ前後に体重を測ってもらって、水の減り方を見ると、泳ぐ前に水を100cc補給しておくだけでその割合が違います。飲んでから吸収されて血液に入るまで時間がかかりますから、水の補給は必要な時に必要なだけというのでは遅いのです。 高齢者ということでいくつかお話をします。高齢者も若い人も水中に入ると静脈還流が促進され脈拍数は下がります。ところが血圧は違います。若い人は水に入ると血圧が下がりますが、お年寄りは上がります。この理由には血管の硬さが考えられます。動脈は動脈硬化という言葉がありますが、静脈もある程度硬くなっていくと考えていいと思います。血圧の管理は水中では大きなウェイトを占めますので、血圧が高いから水中運動をするという場合は、条件を揃えなければいけません。その時の水温は、不感温度といわれる35℃プラスマイナス1℃ぐらい(正確には34℃ぐらい)。冷たいと感じないような水温にしないと、血圧が高く上がります。血圧が高い人を他の人と同じように30℃の水温で運動させるのはむずかしいと考えてください。 水位はお年寄りの場合、最大値で鎖骨の下までにしてください。また連続で動く場合、お年寄りには前後の動きはかなりきついので間に上下の動きを加えてください。 |
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