循環器系疾患予防改善のためのアクアフィットネスの意義と効果〜田中宏暁氏〜

 高血圧治療ガイドラインによれば、血圧130mmHg/85mmHgを超えると「正常高値血圧」であるとして、生活習慣の改善が必要だと言っています。
 生活習慣の改善とは食事療法と運動療法。食事は減塩(一日6g未満)し、アルコールを控え(一日缶ビール1本か、日本酒1合が目安)、魚中心で野菜と果物たっぷりの食事を心がけます。
 さて運動療法ですが、ウォーキングやジョギング、水泳のようなダイナミックな運動で、乳酸閾値に相当する軽運動(「ニコニコペースの運動」)であれば、顕著な降圧効果が得られることが証明され、さらに糖尿病、高脂血症、肥満といった心臓病や脳卒中の危険因子の改善効果も認められています。
 現在の遺伝子研究において、我々人間はほぼ99・9%同じ遺伝子でできています。しかし、ある遺伝子のスイッチがONになったりOFFになったりしている、という違いがあることがわかっています。つまり健康な身体を維持するためには良い遺伝子のスイッチをONにし、悪い遺伝子のスイッチをOFFにすればいいわけです。そこでニコニコペース運動をした筋肉を取り出して遺伝子の発現を調べたところ、なんと600あまりの良い遺伝子のONが認められました。ニコニコペース運動が降圧効果をもたらす機序の一つとして、「心房性ナトリウム利尿ペプチドの分泌促進」が挙げられます。血管を拡張させてナトリウムを利尿させる、降圧効果のあるホルモンですが、これがニコニコペースの運動をすると見事に出てきます。しかしニコニコペースより運動強度が高くなると、今度は血圧を上げる様々なホルモンが分泌され始めます。
 まだ実証されていないことですが、「心房性ナトリウム利尿ペプチド」は心房の伸展が分泌刺激ですから、水泳のように仰臥位で水圧を受ければ心臓に血液が集まり、分泌がさらに高まる可能性が十分考えられます。これはアクアフィットネスの大きな利点の一つと言えるでしょう。


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