<基調講演>
「ドイツの温浴施設から学ぶ」〜スイミングクラブへの提案〜
国士舘大学・医学博士 須藤 明治 氏

●ゆっくり時を過ごすドイツ人

 最初に、ドイツの文化をご紹介しておきましょう。ドイツ人のライフスタイルは非常にシンプルです。日本は競争社会で、ぎすぎすしすぎているように思えますが、ドイツは日本より核家族化が早く、成熟した大人社会だと感じます。よけいな出費はさけ、売る側と買う側は対等です。必要なものを必要な人に分け与えるという感覚なのです。
 さらに、ドイツ人の余暇に対するイメージで大切にしているのは、「落ち着いてゆっくり時を過ごすことで豊かさを感じる」ということです。

●工夫の多いドイツの温浴施設

 ドイツではスイミングと水中運動は基本的に異なる施設で行われています。
水中運動を行うバーデハウスでは、水中運動療法士(バーデ・マイスター)により、肩・腰・膝などの専門的な水中運動が行われています。 
 次に、ドイツの温浴施設で体験見聞した中で、みなさまの参考になりそうな事柄を具体的にご紹介しましょう。
 ある施設で肩の有料プログラムが行われていました。一般の人達もその後ろで見よう見まねで行っていたのですが、1mほどの棒が参加者に配られた時、後ろにいた人達はまねできなくなりました。このように道具をうまく使うことにより、有料化と差別化が図られ、参加者達の満足感も満たすことができます。日本でもインストラクターにとって、アイテムはとても重要な武器になるでしょう。 
 天井から何本かのスピーカーがぶら下がっているプールもありました。プールサイドについているスピーカーでは、水の反射で療法士の声が聞こえにくいからです。さらに、天井を見ると、交差点でよく目にするミラーが規則正しく設置されていました。水面に浮いた状態での水治療法やリラクゼーションを行う上で、人とぶつかってしまうことを未然に防ぐミラーなのです。使用する人、指導する人のことを考えた施設であることを痛感しました。 
 サウナではアウフグースというイベントが大人気でした。そのプログラムは、90度のドライサウナにスタッフが訪れ、扉を開け、室内の空気を入れ換えるために縦回転でタオルをぐるぐる回し始めます。そして、新鮮な空気が入ったところで、アロマの入った水を熱せられている石にジワーとかけます。湯気がサウナの中に充満したところで、ヘリコプターのようにタオルを頭上で回し始めます。最後に、座っている人、一人ひとりに向けて、バタバタとタオルで熱風を吹きかけます。10分間程度のイベントですが、これを目当てにサウナはいつも満員でした。
 ドイツのバーデのシステムとしては、33〜34度くらいのプールで関節可動域の改善を目的とした軽い運動をする、36度のプールで浮いたりマッサージをしたりしてリラックスする、29度のプールで血管を締め、少し歩く、その後水分補給して、足を高めにおくことができるデッキチェアで休憩する、というものがあります。このような組み合わせを考慮して、みなさんのクラブでも新しいプログラムを作ってみてはいかがでしょうか。

●健康データバンクになろう

 これからのスイミングクラブ・スポーツクラブは、スポーツの楽しみの提供を基本に、会員さんの個々人の体調、血圧、体重、ヘルスアンケート等のデータを整理・管理して、健康データバンクとしての役割を担う必要があるでしょう。


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