◎再びニュートンの第三法則へ
本日はすべての競技種目にあてはまるストロークテクニックについてお話しいたします。ストロークテクニックについての考えは非常に早く変化しています。1970年代は前に進むためには水を後ろに押さなければいけないというニュートンの第三法則がスイマーの推進に関係していると言われていました。その後水泳に関する基礎理論が劇的に変わり、手をスカーリングしていろんな方向に動かすことにより揚力が発生し、その推進力を使って進んでいると考えられ始めたのです。この考えはベルヌーイの定理に基づいています。しかし今ではニュートンの第三法則が正しく、ベルヌーイの定理に移ったのは間違いだったと考えています。ストローク中の手の軌跡のうち、手が後ろに動いている部分で、スイマーを前に進める推進力が生まれているからです。泳いでいる時に揚力が発生するのは間違いないのですが、推進力の中で揚力の占める割合は低いと思っています。大きな揚力を発生させるには、水の乱れを起こさないなめらかな流れを生み出すことが必要ですが、人間の手はなめらかな形状をしていません。
以前は、ニュートンの第三法則の適用の仕方が間違っていました。真っ直ぐ後ろに水を押さなければいけないと考えていたのです。真っ直ぐ手で水を押していくと、肩は円を描くように動くので、腕の他の部分は推進力を生み出すのを邪魔するように動きます。ですから、内側や外側に手を動かし、手の平だけでなく腕全体で水を押すことが必要なのです。水を押すと水が加速し、同じ方向に押し続けるには水の流れよりも早く手を動かす必要がありますが、これを行うのはむずかしく非常にエネルギーを消耗します。そのためスイマーは内外と動きを変更し、水が動いていない場所を選択し、水を後ろに押しているのです。
◎インスウィープの部分が最も重要
どの種目でも最も推進力が出る箇所はキャッチです。ストロークの最初の部分では腕が下の方向に水を押しているので推進力に貢献しません。キャッチポジションに到達したらインスウィープが始まりますが、ここで肩の動きが重要になってきます。ただスカーリングをするのではなく、指先から腕の付け根まで腕全体で後ろの方向に水を押していく必要があるからです。肩の構造のために最初は後方外側に、後半では後方内側に腕が動きますが、これが一番効率のよいやり方です。多くの選手はストローク後半で最高の推進力を得ますが、これはこれまでの間違った指導のせいではないかと思います。優れた選手はストローク中の速度に2つのピークが見られます。また、多くの選手は腕を伸ばしてインスウィープを始めると考えていますが、腕を曲げて始め、その後はそれ以上曲げないことが大事です。最初にキャッチした時の肘の位置(高さ)を大きく変えてはいけません。そうでないと肘落ちという形になり、水を後ろではなく下に押すことになるからです。
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