「企業環境の悪い今こそチャンス」
〜クロネコヤマトの実践から〜

元ヤマト運輸(株)取締役社長
都築 幹彦氏

◎常識に挑戦した宅急便


 今から25〜26年前、ヤマト運輸は運送業界の中で三流のCクラスの位置にあり、そのうちつぶれるのではないか、とさえ言われていました。そこで、ヤマトだけの特徴を出そうと思い、商売の相手を法人から個人に変えようと決意したのです。
 「個人はお客にあらず」これが当時の運送業界の常識でした。常識ではダメだと言われていた分野に挑戦したのですから、様々な障壁が立ちはだかりました。なかでも厚い壁は労働組合の大反対です。仕事をするのは運転手ですから運転手が納得しない限り始められません。そこで、宅急便を始めることに組合が賛成するよう執行委員長と話し合いまとめてもらいました。
 もちろん規制も厚い壁です。免許事業なので免許を運輸省からもらわないと事業ができないわけですが、米屋、酒屋、コンビニを取次店にしたいと運輸省に申請にいったら却下されました。天下の道路を一時的に占拠するのだから警察庁が反対するよ、というわけです。しかし「市民は便利だな」と言って最初に認めてくれたのは警察庁でした。
全国47都道府県の免許を取り終わったのは、事業を立ち上げてから15年目、私の社長時代の最後の年でした。

◎惰性は企業をダメにする

 ダメな企業には共通点があります。
 まず1つは惰性の経営を行っているということです。人間は元来保守的ですから惰性の方が楽なのです。その結果、新たなことに挑戦もしませんし、企業の体質を変えようともしません。
 ヤマトの場合も宅急便を始める前は惰性の経営でした。規制との戦いは確かに大変でしたが、一番大変だったのは会社の体制や体質を変えることだったのです。
 2つ目の共通点は、トップ層に問題がある、ということです。トップが会社で起きていることを知らなかったり、緊張感を持たない経営をしていたりすると、とんでもない事件が起こることがあります。トップがダメなら会社もダメになるのです。

◎企業が生き残るためのヒント

 生き残るためのヒントをいくつか申し上げますと、まず努力だけではダメ、ということです。惰性に流されず新しいことを考えるためには、今まで持っていた常識を捨てることです。過去の常識が正しいと人間は思いがちですが、いったん全て捨ててみて、良いものがあれば残せばいいのです。
 それからトップは率先して考え、動かねばなりません。ヤマトの運転手も最初は宅急便を嫌がりましたが、トップの姿を見て「やってやるか」という姿勢に変わったのです。
企業は、小さなことでもいいから常に挑戦し続けること、改善しようという意欲をみんなが持つことです。それによって体質が変わり、活性化し、新しいことがしやすくなります。
また、お客様の立場に立って自分の会社を見ることです。宅急便は常にお客様の立場で考えてきました。その成果は郵便局の3億個に対してヤマトの10億個という数に現れています。一番強いのは口コミで、お客様に信頼されるとお客様がお客様を呼び込んでくれるのです。企業で一番大切なのは、運転手やインストラクターなど、直接お客様と触れる人たちです。ですから人間の資質を高めることは非常に大切です。これはバブルの時代にはできなかったことで、不況の今しかできないことなのです。


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