人(チーム)が変われば方程式も変わる

 野球解説者には、自分が監督になればすぐに優勝するようなことを平気で言う人がいるが、人を育てるには時間がかかります。「理論」は通用しません。選手としても監督としても実績を残した人もいるが最後には全部失敗しています。チームによっては同じ方程式は通用しません。理論は同じでもやり方を変えなくてはいけないのです。誠心誠意教えて、子供達(選手)が着実に能力をあげてくるまでには時間がかかります。指導者を選ぶ時は、人間的なものを加味して選んだら上手くいくと思います。野球にしてもスイミングクラブにしても指揮をとる人が「人材」を見誤まると思った成果(結果)はでないと思います。
 昭和29年に巨人軍に入団し、13年間プレーしました。巨人をやめた後「縁があれば人に教える立場になるかもしれない。勉強のためにアメリカに行こう」と考え、早速英会話を習い単身アメリカに渡りました。その時勉強したのは、「人の使い方」。当時の日本の野球と違い、米国の野球は相性が良い悪いは関係なく、きちんとローティションを守った野球。そして、皆に責任を課しやらせて結果に対して厳しく判断していくというやり方です。これを自分の宝にしようと思いました。「積極的な人間を作ろう。全力でやった人間は絶対怒らず負けた時は原因を教えてやろう」という事を米国、中南米を回った4ヶ月間につかんで帰ってきました。

評論家生活で教わった大切なこと

 評論家時代サンケイスポーツに寄稿していました。一生懸命書いた私の原稿を当時の担当部長がいとも簡単に書き直すのを見て、「こういう文章がどうしたら書けるか」と聞くと、「広岡君しごかれてしごかれて10年」と言われました。野球も同じことが言えるのです。人を育てるには10年かかります。頭でわかっていても細胞がわかっていない。選手には、それを訓練で無意識の域までやるのがプロの世界だよと教えます。
また、ある時には「散漫な文章ではなく、最も大事なこと1つを選びそれを集中的に書きなさい。これを『1点絞り』といって一番大事なんだ」と言われました。このことがヤクルトの代理監督になった時に役にたちました。何十年と勝っていない、打つ、投げる、守る全てに問題が山積しているチームでした。それを皆は一気にやろうとするが私は「1点絞り」を利用しました。その後ヤクルトは素晴らしい結果をだしました。評論家生活は本当に大変でしたが、大切な事を教わりました。
 広島時代に、教育が正しければ、一生懸命やれば出来るのだということを私は選手から教わりました。この時に私の持論「人は教育で育つ」が確立しました。「正しいことを根気よく、細胞が記憶するまで訓練する」というのが絶対的な考え方だと思っています。

心の法則と肉体の法則

 さらに、私が大事にしていることは、常にベストコンディションを保つということです。どんな正しい訓練でも動けば疲れます。疲労は血液が濁って体が酸化している状態。寝る時はしっかり寝て、バランスの取れた食事をする事です。血液を濁す原因は心の問題でもあります。心が消極的にこり固まったり、恐怖観念を長く持つと血液が酸化します。血液を弱アルカリ性に維持することが健康体の原則です。心の法則と肉体の法則があるのです。
 皆さんも苦労はあると思います。楽して答えは絶対出ません。楽しく苦労して元気溌剌と頑張れば、自ずから若い人は答えをくれると思います。
 私もこれからも野球界のために全力を尽くして行こうと思っています。


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